あさってのほうへ

九州 traces

初めての自転車での長期旅行。

友達と酒を飲んでいるときに、
「自転車を買ってどこかに行こう」
こんなふとした会話がきっかけで
完成車４万円のＭＴＢぽい自転車、それとリアキャリアを購入。
そして旅行が企画された。
その友達の都合が合わなくなり、ぼく一人で行くことになった。

自転車で走りきれるだろうか。
孤独に耐えられるだろうか。

不安は尽きなかった。

自転車についての知識は、パンク修理の方法のみ。
しかも知識として知っているだけで、実際にしたことはない。
ブレーキシューの交換方法すら知らなかった。

テントやシュラフなどのキャンプ用品に不安はなかったが、
自転車旅行のための装備は惨めなものだった。
グローブはなく、軍手。
レインウェアは500円ぐらいの、透明なカッパ。

そんな状態でも、自転車旅行はできるのだ。

目標は
「自転車で九州一周」

最短かつ一番ラクな方法で一周する。
そこに楽しもうという考えはなかった。
ルートも海岸線を時計回りにまわるのみ。
しんどそうだから内陸には入らない。

いま思うと信じられないことばかりだ。
ぼくの自転車旅行はここから始まった。

初めての一人キャンプ。
初めて峠を越えたら、別府湾がキラキラと輝いた。
日南フェニックスロードで自転車で海際を駆ける気持ち良さを知った。
日向灘から昇る朝日に感動した。
九州最南端を踏んだ。
桜島の荒々しさに固唾を呑んだ。
日本一周チャリダーに会い、自分の小ささを知った。
風邪をひいて一日寝込んだ。
向かい風にイライラし、登り坂にブチ切れた。

自転車で走ることに苦はなかった。
孤独を感じることもなかった。
人の優しさに触れた。
その優しさに対する感動はあまりに大きく、
感謝の気持ちは絶えない。

「どうして初めて会うぼくに気を使ってくれるんだろう」
旅に出なければ浮かんでくるはずのない疑問。

その答えを求め、
ぼくの知らないモノに出会うため、
自転車旅行は続くこととなった。

　　走行距離　1638.5km / 13days